高橋みなみのために鐘は鳴る

二重三重のPAトラブルに見舞われた公演があった。公演がはじまってすぐに、音が出なくなる、欠ける、割れる、MCの尺が計れない、など。ここしばらくで例を見ない、最悪のトラブルだったように思う。
慌てたPAオペレーターは、多くの曲で基調ボーカルを取る「たかみな」こと高橋みなみに丸投げ。歌の苦手なメンバーは十把一絡げに絞り、歌のバランスをガタガタにする失態を演じた。誰もが心の中で恐れていた通り、連日の酷使が祟って疲労骨折するように、公演は崩壊するように見えた。
しかし次の瞬間、冒頭から見舞われたハプニングが、お昼寝どき公演のメンバーの目を覚ました。降って沸いた重責を託された高橋は、ハプニングに戸惑いを見せたのも直後だけ、そのあとは、音程が外れようとどうだろうと、振り付けと歌の兼ね合いを、高いレベルで維持すべく力を尽した。今思えば、高橋のポジションが代役の研究生だったら?と考えてヒヤリとするものの、高橋の存在感をあらためて感じさせるものとなった。

チームとしてのまとまりを、とかくチームKと比較されてきたチームA。サッカーに例えれば南米系の、個々の能力を活かしたフリースタイルの公演を続けてきた。だが今回のように、献身的な高橋の元に、逆境の中で必要なチームとしての絆を、またたくまに結ぶこともできるのだ。もしかしたら「プロ根性」と言い換えられるだろう。それは、チームAらしさの発現でもあった。

MCでは、各メディアで「むちゃ振り」をこなしてきた大島麻衣が、機転を利かして、ハプニングをサプライズと笑い飛ばして培った度胸を感じさせ、戸島花は、戸島らしいひねくれた陳謝と感謝の気持ちを言葉に織り込んだ。峯岸みなみは、わかりやすくテンションが上がっていた。篠田麻里子はいつも通りよく笑った。佐藤由加理佐藤由加理だった。そして、手慣れたすべり芸でオチを引き受ける高橋の懐の深さもそのままだった。研究生という後輩を前に、先輩としての役割を、いつも通りこなしているメンバーの姿が目立った。

そうして辿り着いた『BINGO!』では、ハプニングを乗り越えて公演を作り上げた喜びを、文字通り爆発させる。マイクを通した声がおかしくても、通さない声も届きそうな小さな劇場である。届けとばかりに、気持ちを込めていたメンバーの姿が目立った。
久しぶりの公演となった篠田を待ち望んでいた層が、公演を成功に導こうとして、過剰なまでのフォローで空気を支えた面もあっただろう。同じハプニングを共有することによって、一部の発していた熱狂の後押しが、劇場を前向きな力で満たしていったように思う。
だから、最後の『なんて素敵な世界に生まれたのだろう』の歌詞、「人生の中の、わずか1ページ」「もっと誰かを愛して、愛されてごらん」が、実感の伴った福音として、かつてないほど響き渡ったのだろう。これは、ひまわり組を経て、4th公演を再び咀嚼して歩いてきたチームAにしか、言霊を入れられない歌詞である。
メンバー同士が抱擁する場面では、公演をひとつ乗り越えたことを労うように、研究生を気遣う抱擁が印象に残った。その「優しさ」は、経験を積んで、試練をくぐり抜けて磨かれるものである。今回の公演では、磨かれたチームAという宝石の輝きが、確かに感じられる瞬間があった。グダグダであろうと、ヤケクソであろうと、幕が上がってしまえば、最後までやり抜くしかない。「楽しみ」に転化してみせることで、チームAの逞しさを存分に見せつけたのだ。
なにしろ、踏んだ場数は伊達ではない。チームAの「A」は、はじまりの「A」なのだ。そしてこれからも、公演1000回を数えるAKB48の先頭を走るチームAは、AKB48のエースの「A」であり続けるはずだ。小さな高橋みなみの、大きな存在とともに。