前田敦子の埋没と、チームAの「今」

チームAの「今」を色濃く映す存在として、個人的に、前田敦子を注目して久しい。先日の夜公演では、前田を中心に見た。当日の3公演目で疲れているということや、今年下四半期の立て込んだスケジュールが災いしていることは確かだろうが、ユニット曲では駆け出しの藤本沙羅にすべての点で見劣り、伸び盛りの藤江れいなをはじめとする研究生世代への交代が、一気に加速しそうな予感がよぎるパフォーマンスだった。メディア露出の多い前田を、AKB48全体のイメージと重ねて観る人はきっと多いだろう。輝きがまったく感じられない公演の前田を見て、「AKB48はこの程度か」と、一期一会の誰かが評価するとしたら、とても残念なことだ。
もともと、未来のスケジュール帳が埋まっていると安心するタイプと、息苦しくなるタイプに分けられるなら、前田は間違いなく後者だろう。AXライブが終わるまで息つく暇がない現在の状況に、単に溺れかけているのかもしれない。調子が悪いとき、あるいは、思い切れず迷っているときに垣間見える「憂いの前田」も捨てがたいが、『109』から『ひこうき雲』の流れで束の間にはしゃぐ姿を見ると、ノっているときの口角を上げた得意げな顔がまったく見られないのは、素直に寂しく思える。
ただしこれも、A4thリバイバル公演において、古株に囲まれていたときの藤江佐藤亜美菜の埋没ぶりと重なるようにも思える。単に研究生に囲まれて、気持ちが一歩引いているだけかもしれない。そのように、MCでは、相変わらず、受身の「思いつかない病」で大島麻衣に甘えていた。それも前田らしいといえば前田らしいのかもしれないが、物足りなさを覚えるのも確かだ。

その大島と板野友美は、生え抜きらしい説得力のある仕事ぶりで安心した。ノースリーブスの3人とモデルの2人が欠ける中で、大島の華やかさと、随所に見せるエンターテイメント性とプロ根性は圧倒的だ。ただひとつ哀れに感じるのは、MCで見せ場を作ろうとしているのは、その大島独りということ。孤独な時間をこなした後、MC後の暗転で、ひとりの客から叱咤の言葉を受けた大島は、その後の数曲を、ユニット時の明るさとは対照的な硬い表情で踊っていた。先日ラジオ番組をはじめた宮崎美穂北原里英の成長、そして絡みを期待されている藤江の頑張りが待たれる。佐藤由加理は、あいかわらず佐藤由加理以上でも以下でもないが、MCでは重要な役回りをしっかりと演じている。場面に頓着しない板野の天然ぶりが、A5thのセットリストに、軽やかな魔法をかけていることも見逃せない。

それにしても、北原と研究生の高城亜樹を、巻き髪やかぶり物の有無だけでは足りないほど似せているのは、なぜだろうか。A6thの頃には北原の茶髪が解禁されて分かりやすくなるだろうが、眉の手入れを変えるだけで、現状でもちゃんと差別化が図れそうなものである。動きを見比べていて感じたが、もしも高城が、手近な成功例として近似の北原をトレースしているなら、いまのうちに考え直したほうがいいのかもしれない。欠けている部分補うなら、北原からではなく、むしろ中田ちさとから学ぶべきことが多いように思える。満面の笑顔が魅力的な北原だが、楽曲の序破急にあわせた表情の引き出しが少なすぎるのが難点だからだ。高いレベルにある北原にあえて注文するとすれば、体裁の取り繕えない部分を恥と思わずに、加減のバランスを崩して、もっと表に出していくべき。そのことだけだろう。
佐藤亜美菜は、積年の憑き物をA4R千秋楽で落としたかのような良い表情をしていた。研究生が多くいる中にあって、遠慮することがないのだろう。残った問題は弾けるときの思い切りのなさだけだ。ネタにするような太腿は、もう好事家に任せるしかない。
瓜屋茜は京劇の武旦を思わせる凛々しい動きが気持ちいい。横顔の造形が単純に好みで、横を向く振りのときはつい目で追ってしまう。近野莉菜小原春香に追いつきそうなくらいの好パフォーマンスを見せていた。お姫様を棄てきれない小原春香を、やがて追い抜くかもしれない。
大家志津香冨田麻友は、フリの大きさで目を引く。バックダンサーのツインホイールとして印象に残った。

「研究生公演」は「チームA公演」に名前が変えられただけで、現在も続けられている。まさに、高橋みなみが出演した研究生公演のような「研究生+豪華ゲスト公演」だと思えば、実質はまったく変わっていないとも言える。
だが、チームAメンバーは新しいA5セットリストで気分を変えられただろうし、昇格組の処遇は落ち着くところに落ち着いた。研究生は新しい勉強を「チームA」メンバーを観に来る場で学ぶことができるようになった。それで全て問題ないのではなかろうか。
メディア出演組が帰ってきて場数をこなし、胸を張れる「チームA+ゲスト研究生公演」になったとき、公演がどう変わっていくのかの興味も尽きない。個人的には、現在調子を落としている前田敦子の、そのときの「今」が、チームAの「今」とどう呼応しているかを観る楽しみもある。
人間は誰もが、もがきながら生きている。我々だってそうだし、前田をはじめとするメンバーだってそうだろう。だから、嘘偽りのない「今」を楽しみたい。その先の「未来」は、「今」を受け入れるところからはじまるのだから。